黒澤明監督の愛弟子・森谷司郎監督の大作映画です。
怖かったです。衝撃的な映画でした。初めてこの映画を観たのは小学生の頃でした…。今、この足下が沈んだら…子供心に真剣に悩んでしまいましたし、山鳴りがすると日本が沈むんじゃって…思ったりもしました。
叔母はこの映画を劇場で観たと云っていましたが、「胸の悪くなる映画」と感想をもらしてたのを覚えてます。
「所詮、フィクションの世界だ」と割り切れない映画ですよね。

阪神大震災、新潟中越地震、スマトラ島沖の大津波…大きな自然災害があるたびに脳裏をよぎるのがこの映画なのです。自分にとっては、かなりのトラウマ映画です。
この映画は、ご存じとは思いますが、小松左京のベストセラー小説の映画化です昭和48年の9月に撮影開始で、公開がその年の12月…たった3ヶ月弱でこの映画は作られたのです。公開されるやいなや、日本映画としては初めて配収20億円という空前のヒットを放ったのです。
さてさて、この映画で一番印象に残る(猛烈に)のは、右のシーンですね!!日本沈没を見たことがある人なら絶対このシーンが印象に残っているハズです。
山本総理(丹波哲郎)が学識経験者を呼んで、日本海溝の異常についての懇談会が開かれ、その中で総理にプレートテクニクス論を分かり易く説明しているこの叔父さん(失礼)この人、本当の大学教授・竹内均さんなのです。残念ながらすでに故人となりましたが、よくNHK教育にも登場していましたね。東京大学名誉教授でもあり、地球物理学の権威そして科学雑誌「ニュートン」の創設者でもあります。

この映画の冒頭で竹内教授が説明したプレートテクニクス論は、馬鹿な自分でも良く理解できるほど分かり易く、大陸が動く論理、地震発生のメカニズムをコンニャクを使って教えてくれるなど、ちょっとした科学映画を観ている気分にさせてくれます。
そしてこの説明があってこそ日本沈没と言う荒唐無稽な自然現象があってもおかしくない事だと言うことを観客に植え付け、この後に展開される災害の数々に強烈な説得力を持たせているのです。

竹内教授がこの映画で果たした役割は果てしないのです。
余談になりますが、この竹内教授は、自分の高校の地学の先生に似ているのです(笑)その人は世界で初めて「コノドント」という生物の化石を発見した人なのですが、自分は「●●ちゃん」とちゃん付けで呼んでました(笑)でも、後に「コノドント館」なる博物館が出来て改めて凄い人だったんだと見直しました(爆)彼とは結構、高校時代仲良しだったんです(センセイだろ!!!)
この映画で、もう少し深く描いて欲しかった人物がこの島田正吾が演じた渡老人です。
映画でもかなりのインパクトがありますが…。日本を日本人を可愛い子供を見守る父親のような存在であるのです、この渡り老人は…。田所博士と渡老人が初めて合い、開口一番に老人が言う言葉が「ツバメじゃよ…」インパクトありますよね。ツバメが来ないのは日本に何かが起こっていると言うのをこの老人は感じていたんです。
政治を陰で動かせるこの謎の老人は、短時間で田所博士の素養を見抜き、陰で援助して行く事になるのです。
ツバメじゃよ…そして、ついに現実になる東京大震災。次々と崩れ落ちる高速道路。
高層ビルから降り注ぐガラスを浴びる人々。押し寄せる高波に火災…。地獄絵が展開されて行きます。それを呆然と見つめる山本首相…。
消防車は目的地までたどり着く事が出来ず、自衛隊ヘリからの消火弾投下も、火災を抑える事は出来ず、非常食は110万食しかない…。山本首相は絶句する!!
「110万食?君!東京の人口は…」1000万人の都民に対して110万食しかない現実を突きつけられる首相。自問する
「国民の生命財産を守るとは何か?」火災を逃れ、皇居前広場に集まる都民。宮内庁は皇居内に都民を入れようとせず、門を固く閉ざし、機動隊がそれを守る。人々の叫び声が聞こえる
「お願いします!せめて子供だけでも入れて下さい!!」山本首相が宮内庁に命令する
「非常災害本部長、内閣総理大臣の命令です。直ちに門を開いて避難者を宮城内に入れてください」山本首相は感じていた、この地震が日本沈没の前触れである事を。
この、東京を襲った巨大地震で、360万人が死んだ。
山本首相も妻を亡くした。
燃える東京を愕然と見つめる山本首相
皇居に押しかける被災者と阻止する機動隊東京大震災後、渡老人と山本首相の間で日本人を海外に脱出させる『D2計画』が話し合われる。特使が世界各国に派遣され、日本人を受け入れて欲しい旨の交渉が開始された。
そして渡老人は、3人の学識経験者に、これから生きて行く日本人の聖書とも言うべき「日本民族の将来 D2基本要項」を作らせ、山本首相に手渡した。皇室はスイスへ移住。
そしてその意見書は3つに分けてあった。
「一つは、日本民族の一部が何処かで新しい国を作る為に」「もう一つは、世界各地に分散し、その国に帰化する人の為に」「もう一つは、何処の国にも入れられない人の為に」そして、3番目の意見書にはもう一つの意見書が入れてあった。それは意見書をまとめた3人の個人的な意見であった…その内容とは
「このまま何もせん方がいい」凄い言葉です。感動しましたし、考えさせられる一言です。「一億一千万の人間がこのまま日本と共に海に沈んでしまうのが日本及び日本人には一番良いことじゃ」と聞かされ呆然とする山本首相。この一連のシーン…凄いです。丹波哲郎一世一代の名演技だと思います。国が無くなるからと言ってその国の人間がよその国で生きる権利があるのか??考えさせられます。しかも1億という膨大な人間がです…。


東京大震災を超える超常現象が起こり始め、富士山や各火山の噴火が始まり、日本列島は急速に沈んでいきます。溶岩と言う血液を吹きだして悶絶する日本列島の姿が衝撃的でした。
日本を愛すればこそ「何もせん方がいい」と結論に達した事も、日本を愛すればこそ「一人でも助けたい」と思う気持ちも、どちらも間違ってはいないと思います。だから考えさせられるんですよね。
日本とは、日本人とは何なのか?今の日本人には、日本が沈むという位の大風呂敷を敷かなければ真剣に考えようとしない民族に成り下がってしまったんでしょうね。
日本と心中する渡老人と田所博士…。最後は名台詞のオンパレードですが、やはり原作で一番感動する渡老人の台詞が映画ではカットされているのが残念でなりません。
日本民族とは少々距離を置いて日本を見つめ愛した渡老人(映画ではそう言う部分が描かれていない)と日本人として、日本の学者として最初に日本の異変の発見者となってしまった田所博士…。この二人それぞれの日本観が素晴らしいです。
「花枝…何処かの国で日本人と…いや世界中の何処の国の人間とでも良い…仲の良い夫婦になり丈夫なやや(子供)をな…」渡老人が、姪に最後に掛ける言葉です(涙)

「総理、日本人は民族としては若い。四つの島でぬくぬくと育てられてきたまだ子供だ。外へ出て行って喧嘩をして酷い目にあっても四つの島に逃げ込み、母親の懐に鼻を突っ込みさえすれば良かった。しかし、これからは、その帰るべき国が無く、海千山千の世界の人間の中で…総理、日本人を頼みますぞ!ワシは日本が好きだった…これかも日本人を信じたい!!」田所博士が山本首相に言う最後の言葉です(号泣)
そして日本は消える…。
原作には到底及びませんが、映画としては高い完成度をもっていると思います。小松左京が描きたかったのは、日本が沈没した後の日本民族が世界でどうなるのかだったそうです。だからこの、日本沈没は序章にしか過ぎないのですが、続編は未だに出来てません。この映画を観るたびに感じることは、今生きているこの地が無くなる映画であるにも関わらず、自分的には叔母が感じた「胸が悪くなる映画」とは思わない事です。
それよりも、日本や日本人て…と考えさせられてしまう映画なのです。日本人なら見ておくべき、または原作を読んでおくべきだと思います。
この映画で渡老人を熱演した島田正吾氏は2004年に98才で亡くなりました。まさに大往生ですね。
